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    「幕恋-沖田総司-」
    咲くや我が花、山の南に

    咲くや我が花、山の南に-3-

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    5.

     気がつけば、外は随分と暗くなっていた。
     飲み干した酒の追加を頼もうと障子を開けたとたん、黒いものがすべるように部屋に入った。
    「あれっ、こんなところに」
     振り向けば、宿のそばまで一緒に来ていた猫の《明里》が、まっすぐに山南さんの膝に直行して、喉を鳴らしている。

    「おや、お前、この宿の猫だったのかい?」
     暢気な調子で、山南さんは《明里》を撫でた。
    「客室に入れるような飼い方するかなあ。ちょっと変ですよ、その猫」
     なんとなく、普通の猫ではないような気がしたが、山南さんは気にする様子もない。
    「迷い込んで来たのかな。ほら、こんなにいい子だよ。うるめもちゃんと食べるし」
     山南さんの手からもらったうるめを、《明里》は美味そうに食べている。

    「もおっ。僕は猫といっしょですか」
    「ははっ。総司はうるめよりこっちだろう」
     そう云って山南さんは、膳の上に竹皮の包みを置いた。
    「せっかく大津(ここ)まで来たんだ。名物の一つや二つ、賞味しないとね」
    「走り井餅ですね。これ、前から気になってたんです」
     井戸の清水の滴の形とも、有名な刀鍛冶が走井の水で鍛えた名刀に似せたとも云われ、食べれば道中の剣難を免れると評判の餅を、ひとついただく。
    「剣難なら、僕は喜んで引き受けるんですけどね」
     いつもの調子で甘味を渡されて、つい、いつもの軽口が出る。

     昔から、一緒にどこかへ出掛ける度に、山南さんは僕に甘味をご馳走してくれた。
     僕が甘味を特別に好むのは、そのせいかも知れないとも思う。

     
    「やはり、総司は酒よりも甘いものを食べる時の方が生き生きとしているねえ」
     餅を頬張る僕を見て、山南さんは微笑ましそうに目を細めた。
     そう、山南さんのこの表情が、僕は好きなんだ。

    「山南さん。もしかして、僕が来るって分かってましたか」
     酒を呑んでる席で甘味を出されて喜ぶのは、屯所では僕か近藤さんくらいだ。
     屯所を出て、ここまでの道のりを歩きながら、山南さんの脳裏に僕のことが浮かんだのだとすれば……。

     ……そんな風に考えてしまうのは、僕の自惚れですか。

    「さて、どうだろうね。ただね、最後に君とは話したかった」

     『さいご』。
     その言葉には、山南さんが新撰組に戻るつもりはないのだという硬い意志が見えた。
     新撰組を『抜ける』事が何を意味するのか、勿論分かった上で。
     山南さんは何処までも穏やかな表情で、膝においた《明里》の背を撫で続ける。
     《明里》は、まるで山南さんが本当の飼い主かのように甘え続け、時々ゴロゴロと喉を鳴らしては、小さな頭を彼の手や胸に摺り寄せる。

     僕には何故か、この猫が山南さんを連れて行ってしまうような気がした。
     誰にも届かない、遠い場所へ。
     
     そうは、させない。
     連れてなんか、行かせない。
     たとえ、それが山南さんの望みであったとしても―――

     どうしても、彼に戻る気がないのなら、僕は彼を捕らえなければならない。
     副長からの命を受けた、一番隊組長沖田総司として。
     けれど、脱走者として山南さんに縄をかけるような真似だけは、僕には出来なかった。
     
     思想の違い。目指すものの違い。求める世界の違い。
     確かに皆、それぞれに変わった。
     試衛館で修行をしながら、立派な武士になることに憧れていただけの頃のままではいられない。
     山南さんが求めるものが、新撰組の外にあるというのなら、僕は自分の腹を斬ってでも山南さんを逃がそうとさえ思っていた。

     でも……
     違うんですね、山南さん。
     あなたの心は、未だ、僕たちと同じところにいるじゃありませんか。





    6.

     僕は膳を少しよけると、山南さんの目の前に座りなおした。
     山南さんの膝の上から、《明里》が僕を見上げる。まるで、僕がここに居たことに、今初めて気付いたみたいに。
    「にゃぁ」
     《彼女》の鳴き声が、僕をひどく非難しているように聞こえた。
     僕は《明里》にはお構いなく、膝を摺り寄せて山南さんへ近づいた。


    「云ったでしょ。僕、やきもち焼きだって」
     山南さんの頬を両手で挟んで、こちらを向かせる。

     
     顔を近づけて、その唇にそっと、触れる。
     思い切った事をした割には、僕の勇気はそこまでだった。
     酔ったあげくの戯言の延長でさえ、もう少しましだと思うほど軽い、拙いくちづけ。
     そんな取るに足らない触れ方でも、今の僕には大それた事だった。
     労咳を患った僕にとって、こんな風に人に触れることが、許されるはずもない。
     
     何を、やっているんだか―――。
     自分でも情けないほどに、幼い行為だと思った。

     山南さんは、そんな僕の突然のくちづけを静かに受け入れた。

    「……逃げないんです……ね…」
     あまりに静かな彼の眼差しに、僕の方が少し驚いて訊ねる。

    「僕、今、あなたを殺そうとしたんですよ」

     脱走者としてではなく、罪人としてではなく、誰を裏切ったわけでもないあなたを。
     強いて云えば、自分自身を裏切って、自ら逝こうとしたあなたを。


     山南さんは、黙ったまま微笑むと、両手で僕の頬をそっと挟んだ。
     僕が、さっきしたように。
    「君が、それを望むなら……」
     そんな僕の唇を、今度は山南さんが塞ぐ。
    「やまな……み…さ…ん…っ?」
     僕の声も息も、唇を割って入り込んだ舌に全て吸い取られるほど、深く、甘く……。

     彼が膝を立てて、僕を抱きしめた瞬間、《明里》がそこから飛び降りるふわりとした気配を足元に感じた。
     けれど、僕には彼女の姿を確かめる余裕さえない。
     絡めた舌がようやく解放されても、山南さんの腕はますます強く僕を抱きしめる。
     耳元で呟く声が、僕の身体深くに沈んでくる。

    「君が、来ると思っていた。君に、来て欲しかった。総司、総司……」
     いつも穏やかに笑う山南さんの口から漏れた、これまで聞いたこともない悲痛な声。

     変わってゆく、この世界を、山南さんはどう思っているんですか。
     僕たちが、行こうとしている船は、間違った海を目指してしまっているのですか。
     僕に未来はやって来ないけど、まだ、僕を必要としている人がいるんです。
     不安でたまらないんです。僕に、大切な人達が守れますか。
     山南さんがずっと、僕たちを守ってくれたように。僕にもそれが出来ますか。
     もう、山南さんに教えを乞うことは出来ないんですか。

    「何処へも行かないで、とは、もう云いません。山南さんが行きたいところ……僕に連れて行かせてください」
    「……ありがとう」
     呟いた山南さんの目が、いくらか潤んで見えた。 
     


    《続く》
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