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    「幕恋-etc.-」
    薫る春・・・

    薫る春・・・1

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    武市Side

     その日、僕は未夜さんの書の練習につき合っていた。
     彼女のいた未来の世界では、普段使う文字の字体が違っているらしい。はじめのころは楷書で書かれた文字しか読めなかった彼女も、今ではだいぶ、こちらの文字にもなれたようだ。

    「随分と、上達しましたね。では、今日はこのくらいにしておきましょう」
    「ありがとうございました」
     礼儀正しくお辞儀をしてから、嬉しそうに、彼女が頬を染める。
     穏やかな春の日差しが部屋の奥へ届く、桜の時期も終わろうかという頃。
     
    「そうだ、これ。武市さんなら使い方わかりますか」
     彼女はそう云うと、手のひらに乗るほどの、蓋のついたちいさな壷を僕に見せた。
    「さっき、お遣いに行ったときにもらったんですけど、使い方がわからなければお家の人といっしょにどうぞって云われて」
     手渡された壷を開けてみると、ふわりと独特の香りが漂った。
     中には小さな丸薬のような黒い粒が入っている。

    「ほう、練香ですか。よい香りですね。少しまっていなさい」
     部屋の隅の手炙り火鉢を出してきて、灰の上に三粒ほど練香を置く。
    「専用の火鉢でなくて悪いが、火がついていてよかった」
     しばらくすると、白檀に少し花の香りが混ざった、軽く甘い香りが部屋に漂う。

    「わぁ、いい香り」
    「落ち着く香りですね。この手炙りは、このまま未夜さんの部屋に持っていくといい。火が消えてからも、部屋に香りが移ってしばらくは楽しめるよ」
    「でも、武市さんが不便じゃないですか?」
    「僕は、女将から別のを借りてくるから、しばらくはそれを使っていなさい」
    「じゃぁ、お借りしますね。お部屋がいい香りになったら、いっしょにお茶にしましょう」
     彼女は大事そうに僕の手炙りを抱えて、部屋に戻って行った。




     
     なかなか、どうして。
     この寺田屋の女将、お登勢さんという人は、何処までも侮りがたい人物だ。

    「へぇ、練香とは、また風流な。せやけど、未夜ちゃんも、ほんまに罪作りな娘はんやなぁ」
     手炙りを借りに行くと、女将は面白そうに云った。男からの贈り物ということか。
     そういえば、僕としたことが、誰にもらったのかは一言も聞かなかった。

    「気のある娘に贈るなら、何か身につけるものでも贈りそうですが」
    「ほれ、そこでんがな。未夜ちゃんは外で誰かに聞かれたら、『お世話になっとる家におる』て云うてはりますやろ。訳ありで余所で世話になっとるいう身ぃの娘さんに、いきなり簪やの櫛やのとあげたら、もろうた本人は困ってしまいますがな」

     ……ふむ。確かに。仮に、彼女が見覚えのない簪をつけていたら、龍馬あたりは大騒ぎするだろう。
     
     『み、未夜さん、その簪は誰にもろうたがか? ま、まさか、高杉さんが抜け駆けしよったか!?』

     慌てふためいて、負けじと高価な帯留めでも買いに走る龍馬の姿が目に浮かぶ。
     ましてやその相手が、高杉さんでも大久保さんでもなく、未夜さんが町で出会った、僕たちの知らない男からときけば、大騒ぎではすまないだろう。

    「うちかて、未夜ちゃんの事は、大事な娘もいっしょや思うてますよってな。いきなり簪やなんか贈りつけるような殿方が外にいてたりしたら、なんや悪い男に騙されてんのとちゃうやろかと、よけいな勘ぐりもしてしまいますがな」
     僕とて、こころ穏やかではいられない。簪を贈られるような相手と、何処で何をしているのかと、いらぬ詮索をしてしまうだろう。
     しかし、未夜さんとて、そのような贈り物を平気な顔で受け取って、身につけるとは思えない。

    「そりゃ、そうどす。あの子はそないな見境いない子やおまへん。そら、ちぃと…いや、大分、鈍ぅいとこはありますけどな。なんぼなんでも、殿方から身につけるようなもん貰うたら、どないな意味があるかくらいわかりますがな。まぁ、よっぽどの親しいお人からでなけらんと、そないなもん受け取れやしまへんわな」

     僕の考えがわかるのか、女将は一気にそう云った。

    「よう考えた、心のこもった贈りもんどすなぁ。『お家の人といっしょに使こうて下さい』やなんて、そない云われたら、『家のもん』も悪い気ぃしまへん。未夜ちゃんも、気がねのう受け取れるっちゅうもんですがな」
     女将はつくづく感心したように、相手の男とやらを褒める。

    「えらい奥手なお人や。まだまだ若いんやろなぁ。手ぇが当たっただけで、顔を真っ赤にして照れはるような、初々しいお人でっせ。せやけど、未夜ちゃんのことは人一倍、大事に思うてはる……」
     何処の誰かも分からないその男が、どのような人物であるかまで女将にはわかるようだ。
     しかも、女将はすっかり、その未だ見ぬ男の人柄を気に入ったようだ。





    「まぁ、先生に火鉢の用意をしてもらうくらいやったら、相手のお人も、まだまだきばらんと、未夜ちゃんは振り向かへん、いうとこどすなぁ」
     女将の声音が、気の毒そうな憐れみを帯びた調子になったので、僕は少し安堵する。

    「ちぃと、奥手過ぎますのんや。気楽に貰いすぎて、未夜ちゃんに肝心なとこが伝わってやしまへんがな。匂い袋あたりにしといたら、もうちっとわかりやすかったやろに」
     女将、できれば、その男を応援するのはやめていただきたい……。口には出せず、そう思う。

    「いったい、その男は誰なんでしょうね」
     できるだけ平静に、女将に尋ねてみる。
    「さぁ、そこまではうちもわかりまへんがな。未夜ちゃんが行くとこいうたら、甘味屋さんか茶店か、うちのお遣いで行ってくれてる市場あたりどすかなぁ。そこのお客か、お店の若い衆か、まぁ、そんなとことちゃいますやろか」

     練香ひとつで、ここまで相手を推察できる女将の洞察力に甚だ関心する。

    「次に逢うた時に、未夜ちゃんから、ふわぁとそのお香の残り香でも漂うてきたら、それだけで、相手のお人は満足なんとちゃいますか。い・ま・の・と・こ・ろ・は」
     語尾を強めた女将が、僕を覗き込むように付け加えた。

    「これは先生も、うかうかしとれまへんで」
    「な、何の話か、わかりませんが」
     思わず女将から目を逸らしてしまう。
    「さぁ、なんですやろなぁ。あ、そうそう、手炙りどしたな。火ぃついたら、お部屋にお持ちしますよって」
    「い、いや。少し用を思い出しましたので、戻ってからで結構です」
     そう云って、出掛けようとした僕の後ろから、女将のとどめの一言がかけられる
    「練香用の小ぶりの火鉢やったら、香楽堂さんが可愛いらしいのん置いてはりまっせ」
     ……完全に、見抜かれている。だが、悪い気はしない。

     使いやすそうな火道具を揃えて……そうだ、帰りに宝積屋で大福を買って帰ろう。
     たまには、誰かのための買い物をするだけに、出掛けるのも悪くはないものだな。
     
     うららかな陽気の、ある春の日の、昼下がり―――


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